aとtheの区別、そんなに気になりますか?
まじめな読者の方であればあるほど、冠詞の用法を知りたいのではないでしょうか。ロイヤル英文法で勉強しろと言いたいところですが、説明が細かいし、時間もないしということで、さてどうしましょう。正直なところ、欧米言語の冠詞をマスターするのは無理なんだくらいに割り切っていいと思っています。
ドイツ人は楽しているか?
アメリカの大学院在学中、ドイツ人教授がカナダ人学生に論文の英語をチェックしてもらっているのを見たことがありますが、冠詞をかなり直されていました。ドイツ語にも冠詞はありますので、同じような理解をしているんだろうと思いがちですが、用法には違いがあり、der, die, das(英語のtheに相当する冠詞がドイツ語には3種類)をそのままtheに置き換えたとしても、英語では無冠詞だったり、不定冠詞aを使う場合もあります。というわけで、苦労するのは日本人だけではないんだなと安心した記憶があります。
フランス人は楽しているか?
また、以前就いていた仕事でパリに行ったことがありますが、博物館などに行くと、観光客向けに用意された英語の説明文があります。それを見ていると、the がやたら多いことに気付きました。直感的に「この英語はフランス人が書いたんだな」とわかりました。英語なら”a”を使うところで、フランス語はle, la, les(英語のtheに相当する冠詞がフランス語には3種類)を使う場合が多いようですし。
冠詞は理屈だけで勝負できない、らしい
冠詞って、そんな存在。いとこ関係にあるような言語同士でも、使い方は違うんですから難しいですよ。というわけで、私たちが英語を練習する時は、基本だけ知ればいいと思います。参考書を見ると、不定冠詞”a”は、文脈に初めて登場する単数形の単語に付け、”the”は2回目以降に付けると書いてあります。「未知の単語には”a”、既知の単語には”the”」ということです。わかりにくいですね。
少し遠回りの説明になりますが、日本昔ばなしの定番フレーズを例に挙げます。
「むかしむかし、あるところに(とある)おじいさんと(とある)おばあさんがいました。(その)おじいさんは山へ芝かりに、(その)おばあさんは川へ洗たくに行きました。」
よくある冒頭文です。( )内に「とある」と補足しましたが、その名詞に「が」を使うことによって、文脈に初めて登場する人や物を紹介します。これが英語の”a”に相当します。この冒頭文を英語で表すと、
There lived an old man and an old woman.
となります。次に、2回目の、つまり「(その)おじいさん」と「(その)おばあさん」には「は」を使います。既知の人・物には「は」を使うわけです。英語では
The old man went…, and the old woman went…
です。ためしに「が」と「は」を入れ替えてみましょう。
「むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんはいました。おじいさんが山へ芝かりに、おばあさんが川へ洗たくに・・・」
ニュアンスの全く異なる話になります。この例のイメージを参考にしながら”a”と”the”の違いを理解するのもひとつの手です。それでも英会話実践中は、次から次へと会話のキャッチボールをしなければなりませんから、理解と運用は別の話。上手に使えるかは訓練次第です。
覚えて使うべきtheは押さえておこう
必ずtheを使う場面は、例外がほとんどないので暗記することにしましょう。
(1) ひとつしかないもの(the moon, the sun, etc.)
(2) 序数(「~番目」の表し方)(the 1st, the 2nd, the 3rd, etc.)
(3) 最上級(the biggest, the best, the most beautiful, etc.)
「この3つは間違えずに使うぞ!」と目標を定めて、少しずつ慣れていくようにするとよいですよ。使えるようになってくると、(2)と(3)は、実は(1)に集約されることがわかってきます。
冠詞は、一般学習者が完全に習得できるものではないのかも知れません。冠詞に限らずですが。日本語を勉強している人たちが「が」や「は」の使い分けでいつまでも苦労するのと似ていると思います。しかし、それでいいと思います。私たちがマスターすべきことは「コミュニケーションに困らない話し方と態度(と笑顔)」です。これが一番大事。通じる英語で楽しく意思疎通のほうが断然価値がありますよ。文法を突き詰めていたら、英会話は前に進みません。あなたの英語で誰かを笑顔にできたら、それが成果です。言語の正しさよりも、言葉の優しさのほうが良いのです。
今回は以上です。今日のあなたの精一杯の英語を話しましょう!!