■gender-neutralとは?

gender-neutralという言葉を聞いたことはあるでしょうか。「ジェンダー・ニュートラル」とカタカナ表記で用いられることも多いようですが、「性別的に中立な」という意味の形容詞です。「単語や名前などが性別による区別のない」ということで、多様性を重視する社会では重要な概念のひとつになっています。名詞はgender-neutrality, gender-neutralismです。

ここでは、英語におけるgender-neutralな言葉についていくつか挙げていこうと思います。

■簡単な話から

私が初めて耳にしたのは1980年代中頃ですが、political correctness (政治的妥当性:差別的でなく公正さを期した表現や行動) という考え方が普及し、-manで終わる言葉、businessman, chairman (議長) などがbusinessperson, chairpersonに言い換えられました。firemanfirefighterと言われるようになりました。gender-neutralです。

また、もともと男女の区別があった単語、actor – actress, hero – heroineなどの場合は、男性名詞の方を使うのが一般化しています。さらに、husbandwifeはやめてpartnerと呼ぶ人が増えています。gender-neutralです。

■海の中でもgender-neutral

だいぶ前にメモしたノートを見て思い出しましたが、人魚、マーメイド。人魚イコールmermaidだと思ってしまいますが、mermaidは実は「女の人魚」なのです(ちなみに、mer-は「海」を表す接頭辞)。

実は、男の人魚を指すmermanという語もあるにはあるのです。キャラクターとして普及しなかったということでしょう。しかも、merwoman, merbaby, merchildという語もあるにはあるとのこと。これらについても、20世紀後半にはmerpersonが登場したそうです(複数形はmerpeople)。

ディズニーはタイトルをいつかタイトルを変更するのでしょうか、Little Mer…

■少し複雑なsingular they (単数形のthey)

ご存知の通り、英語の人称代名詞は単数形の場合はhesheで性別を区別します。ところが複数形になると「彼ら」も「彼女ら」もtheyとなりますね。一方は性別の区別があり、一方はありません。表現の公正さの視点から、これには工夫が必要だと考えられるようになりました。次の例を考えてみましょう。

(1) You should see a doctor. X will give you some advice. (医者に診てもらいなよ。何かアドバイスしてくれるよ。)

例(1)のXに当てはまる適切な人称代名詞は何でしょうか。以前は、性別の区別のない名詞を代名詞化する場合は、自動的にheでした(He will give you some advice.)。しかし、時代は進みましたから、表現方法を改めようということに。この時点でその医者が男性か女性かはわからないのだから、次のように表そうとなったのです。

(2) You should see a doctor. He or she will give you some advice.

例文は主格ですが、所有格、目的格ならそれぞれhis or her, him or herと表すようになっていきました。

ところが次の問題が起こります。どうして男性形が先なんだ、と。she or he, her or his, her or himの順番でもいいではないか、と。文字表記の場合は、主格だけはs/heと表す工夫がされましたが、他の格では使えない技ですし、口頭でs/heを表現するのは不可能。話者・筆者の配慮でhe or sheshe or heを交互に使ったり、常にshe or heの語順で話す人がいたりと、いろいろなわけです。

(3) You should see a doctor. S/he will give you some advice.

(4) You should see a doctor. She or he will give you some advice.

そして、1990年代後期から2000年代前半辺りに少しずつ広まってきたのが新しい工夫、singular they (単数のthey)です。複数のthey敢えて単数形で使おう。例(1)のような場合には、he or sheではなくひとつの単語で済ませたい。theyにしよう、となったわけです。

(5) You should see a doctor. They will give you some advice.

単純に考えれば、itでもよさそうと思えるかも知れません。しかし、物を指すのに使われるitを人に用いるのは抵抗があるでしょうし、itは形式主語・形式目的語などでも出現頻度が高く、言葉が混乱しそうです。theyならどうでしょう。対象を一人に設定しても、男性と女性という複数の性を包括する言葉だと言えますね。singular theyとしたのはそういう考え方があったのではないでしょうか。

人々の間で次第にsingular theyが使われるようになってくると、次にメディアが動き出します。新聞社The Washington Postが2015年にsingular theyの用法を正式に取り入れると発表。AP通信が2017年に採用と続きます。

ここでひとつ疑問が生じます。主語にsingular theyを使ったら、動詞は単数扱いにするのか、これまで通り複数扱いにするのかです。be動詞はどれを使うのか、3単現のsの扱いはどうなるのか。

今後どう変化するのかわかりませんが、現状ではこれまで通り複数の形を用いるのが一般的のようです。つまり、They isとはせずThey areThey goesではなくThey goのままです。

(6) [単数のthey]Someone left this bag behind but they are unlikely to come back. (誰かがこのバッグを忘れていったが、その人は戻って来ないっぽい。)

これから英語がどのような変化をするのか、また日本語におけるgender-neutralityがどう進むのか、他の言語ではどうか、時代の変化に言葉がどう対応していくのかを見るのも興味深いですね。

今回は以上です。今日のあなたの精一杯の英語を話しましょう!!

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